遺産分割協議と放棄
こんにちは。ライフコンサルティング部の上野です。
8月は夏休みを取られた方またはこれからお取りになる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
8月は一部の地域を除いてお盆の時期である地域が多いので親族が普段よりお集まりになる可能性が高くなる時期でもあります。
私の経験上お盆の時期に帰省して止まっていた相続の話をし始める方が多いように見受けられ、お盆の時期を境に相続に関するお問い合わせが少し増えるように思えます。
さて今回はそんな相続のお話の中でよく間違って認識されているお話をいたします。
まず相続の話の中で「自分は何も要らないから放棄するよ。」という言葉を聞くことがあります。
きっと「相続をする権利」を「放棄」するという意味で使われているのだと思われます。
しかし前回お話させていただきました「意外と知らない相続手続き(相続放棄とは)」を見ていただくと、「放棄」とは『相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に(中略)放棄をしなければならない。(以下略)』
とご説明させていただきました。つまり相続が開始したことを知った時から3箇月以内に裁判所に申立てをしないと「相続放棄」としての効力を得られないのです。
時折り、「話し合いの結果を書面にして署名と実印で押印した書類で放棄した」
とお客様から聞くことが多いのですが、これはおそらく「遺産分割協議書」の話ではないかと思います。
遺産分割協議書は相続人同士で話し合いの末、相続の仕方について取り決めた内容に署名押印をするわけですので法律上、契約書の性質をもっています。
この場合、放棄は契約によって成立するわけではありませんので、先述しました「相続放棄」としての法的効力は得られません。
では「相続放棄」と「遺産分割協議によって何も要らない(相続しない)と署名捺印した」では何が違うのか前回のお話でも少し触れたのですが、放棄”の効力は、初めから相続人ではなかったということであり、相続においての権利も義務も引き継がない、という事です。一方、「遺産分割協議」によって何も要らないとした場合は預貯金や不動産などの財産はもらわない、
と意思表示は出来ますが義務に関しては要らないと意思表示をしたとしても簡単に手放すことは出来ません。
相続で義務として分かり易いのは借金などの債務による支払義務です。
昭和29年4月8日最高裁の判決で『相続人数人ある場合において、相続財産中に金銭の他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解すべきである。』とする判決が下されました。
この判例を根拠に金銭債務等の分けることが可能な債務に関しては相続分に対して当然に分割されるので、遺産分割協議の対象にならないと解釈されることが多いようです。
よって遺産分割協議で特定の相続人がすべてを相続するとして遺産分割協議が相続人間で成立しても債権者側として相続分に相当する債権の主張が出来るとする考えが多いようです。
ここが「相続放棄」と「遺産分割協議によって何も要らない」の大きな違いの代表例です。
いかがでしたでしょうか、いずれ来る相続の話の中でご参考にしていただければと思います。
次回は実際に放棄の効力を得るために、裁判所での手続きについてとなります。